1 親族法の基礎
(1)親族法で学ぶこと
親族法では、おおざっぱにいうと次の4つのことを学びます。
- 婚姻
- 離婚
- 親子(実子と養子)
- 親権
いわば、婚姻関係というヨコの繋がりと、親子関係というタテの繋がりについて学ぶのです。
(2)ヨコの繋がり
婚姻によってヨコの繋がりが発生し、離婚によってヨコの繋がりが消滅します。
婚姻とは、夫婦という共同体を形成することによって法律で婚姻に与えられた効果を得ることを目的とする男女の契約をいいます。一般に「結婚」と呼ばれているものです。婚姻は、婚姻意思と婚姻の届出によって成立します。つまり、男女が夫婦関係を成立させる意思をもって、婚姻届を役所に提出することによって成立するのです。
婚姻には次の効果があります。
- 夫婦同氏・・・姓名のうち、同じ姓を名乗ることになります。
- 配偶者相続権・・・相続権を得ます。
- 同居・協力・扶助義務・・・同居し、協力し、扶助する義務があります。
- 夫婦間の契約取消権・・・夫婦間でした契約を取り消すことができます。
このように、婚姻によって姻族関係というヨコの繋がりが発生します。
離婚とは、婚姻関係を解消することをいいます。離婚も婚姻と同じく、離婚意思と離婚の届出により成立します。子どもがいる場合には、親権者の定めも必要になります。これが協議離婚と呼ばれる離婚方法です。つまり、夫婦で話し合って離婚届を提出すれば、それだけで離婚を認めています。
他方で、話し合いがうまくまとまらない場合もあります。「離婚は嫌だ」ということもあれば「親権は私がもらう」と譲らないこともあるでしょう。そんな場合のために、民法は裁判離婚制度を用意しています。裁判離婚は民法の定める離婚原因がある場合にだけ認められます。離婚裁判をするには、離婚調停を先にしなければなりません(調停前置主義)。
このように、離婚によって姻族関係というヨコの繋がりが消滅します。
(3)タテの繋がり
親子関係は実親子関係と養親子関係に分かれます。また、実親子関係は母子関係と父子関係に分かれます。親子関係の発生につきまとめると以下の通りです。
- 実親子関係
- 母子関係 分娩の事実により発生
- 父子関係
- 婚姻中の夫婦から子が生まれた場合 夫の子と推定
- それ以外の場合 認知されなければ父子関係発生せず
- 養親子関係 養子縁組によって親子関係発生
実親子関係は、母子関係を基点として、母と繋がりのある男性に父子関係を認めるイメージです。父子関係について、婚姻中の夫婦から生まれた子については、その夫の子と推定されます。この場合には、夫が父子関係を否定するには、嫡出否認の訴えによらなければなりません。他方で、婚姻中の夫婦から生まれた子ではない場合(婚外子と呼ばれます。)には、たとえ血の繋がりがあっても、認知がされなければ父子関係は発生しません。
養親子関係は、養子縁組をすることで発生します。血の繋がりがなくても親子関係を作り出すことができます。養子縁組には、普通養子縁組と特別養子縁組とがあります。普通養子縁組は実の親との親子関係が残りますので、養子からみて親が増えるイメージですが、特別養子縁組は実の親との親子関係が終了するので、養子からみて親をチェンジするイメージです。
2 相続法の基礎
(1)相続制度の概要
相続は人が死亡することにより開始します。相続により、死亡した人の財産を一定の人が承継します。ここで、死亡した人のことを被相続人、相続により財産を承継する人を相続人といいます。相続法では、①誰が、②どの財産を相続するのかについて学びます。
ところで、相続については法定相続と遺言相続の2種類があります。つまり、被相続人の遺言があれば基本的にはその内容に従って相続をします。他方で、遺言がなければ法律の定めるところに従い相続をします。
(2)法定相続の基礎
法定相続による場合、相続人が実際に相続する財産は、以下の流れで決まります。
- 相続人の確定
- 法定相続分の確定
- 具体的相続分の確定
- 遺産分割手続
相続人が実際に相続する財産を確定させるためには、まず、相続人を確定させる必要があります。「誰が相続人となるのか」を決めるということです。これについて、民法は次のように定めています。
- 相続人となる人(=法定相続人)
- 配偶者
- 子
- 直系尊属
- 兄弟姉妹
配偶者については常に相続人となります。他方で、それ以外については優先順位があります。①子、②直系尊属、③兄弟姉妹の順で優先します。たとえば、被相続人に子がいれば、直系尊属や兄弟姉妹は相続人となりません。逆に、子と直系尊属がいない場合にはじめて兄弟姉妹が相続人となります。
相続人のパターンは以下の通りです。
- 配偶者がいるパターン
- 配偶者+子
- 配偶者+直系尊属
- 配偶者+兄弟姉妹
- 配偶者がいないパターン
- 子
- 直系尊属
- 兄弟姉妹
次に、法定相続分という相続の割合について確定する必要があります。一言で相続といっても、被相続人が持っている財産の種類はさまざまですので、ひとまず総財産からどれだけの割合を相続人に相続させるかを決めるのです。法定相続分は次の通り定められています。
- 配偶者と子の場合 → それぞれ2分の1
- 配偶者と直系尊属の場合 → 配偶者3分の2、直系尊属3分の1
- 配偶者と兄弟姉妹の場合 → 配偶者4分の3、兄弟姉妹4分の1
法定相続分が決まれば、次は具体的相続分を確定します。具体的相続分はおおざっぱにいうと次のように割り出されます。
- 相続人の一部が被相続人から既に財産をもらっていた場合 → 相続分を減額
- 被相続人の財産を増やすことに貢献していた場合 → 相続分を増額
最後に、遺産分割手続を行います。最終的に相続財産をどう振り分けるかは、遺産分割協議で決めます。遺産分割協議は相続人らによる話し合いです。遺産分割協議では、法定相続分とは異なる割り振りを決めることもできます。話し合いで相続分を自由に決められるとなると、法定相続分の定めはあまり意味がないのではないかという疑問を抱く方もいらっしゃるのではないでしょうか。しかし、法定相続分が話し合いの基準にもなりますので意味がないわけではありません。話し合いがまとまらなかった場合には、遺産分割の審判を家庭裁判所に申し立てることができます。こうして、相続人が実際に相続できる財産が確定するのです。
(3)法定相続のイメージをつかもう
法定相続はこのように考えるとわかりやすいかもしれません。
磯野家でサザエさんが買ってきたケーキを家族で分けるシーンを想像してください。ただケーキを分けるだけではなく、相続人や相続分のルールに従って分けることにしましょう。この場合、ケーキをもらう資格があるのは、配偶者であるマスオさんと子であるタラちゃんです。他方で、尊属であるフネさんや波平さん、兄弟姉妹であるカツオくんやワカメちゃんはケーキをもらえません。尊属や兄弟姉妹より子が優先するからです。そして、マスオさんはケーキを半分もらって、タラちゃんが残りの半分をもらうことになります。
もし仮にタラちゃんがいなかったらどうなるでしょうか。この場合、ケーキをもらう資格があるのは、配偶者であるマスオさんと尊属であるフネさん、波平さんです。そして、マスオさんはケーキの3分の2をもらって、フネさんと波平さんはケーキの3分の1をもらうことになります。フネさんと波平さんは仲良く2人で半分こするので、それぞれ6分の1ずつもらうことになります。
もし仮にタラちゃん、フネさん、波平さんがいなかったらどうなるでしょうか。この場合、ケーキをもらう資格があるのは、配偶者であるマスオさんと兄弟姉妹であるカツオくんとワカメちゃんです。そして、マスオさんがケーキの4分の3をもらって、カツオくんとワカメちゃんは4分の1をもらうことになります。カツオくんとワカメちゃんは仲良く2人で半分こするので、それぞれ8分の1ずつもらうことになります。
みなさんもお分かりの通り、この例でいうケーキが被相続人の総財産です。
(4)遺言相続の基礎
被相続人が遺言を残していれば、その遺言の内容に沿って相続財産を承継するのが原則です。遺言が法定相続より優先する理由は、相続財産は被相続人が自由に処分できたものなので、死後であっても被相続人の意思を尊重する必要があると考えられたからです。
実は、遺言でできることはそれほど多くはありません。遺言でできることは民法に定められているのです。たとえば、以下の事項は遺言で決めることができます。
- 相続分の指定
- 分割方法の定め
- 認知
- 後見人の指定
- 推定相続人の廃除・廃除の取消し
他方で、民法に定められていないことを遺言の中に書き込むケースも少なくはありません。たとえば、「兄弟で仲良く過ごしなさい」「〇〇を相続人とする」といった内容です。この部分については、法律的には効力がありません。
遺言については、その方式が厳格に定められています。遺言の有効性や内容に疑義が生じても、遺言者は既に亡くなっており、遺言者に真意を確かめることができません。そのため、相続人の争いのタネになることをできる限り防ぐために、要件が厳格化されているのです。たとえば、最も利用されている自筆証書遺言では、遺言の内容となる全文、日付、氏名の自署と押印が必要となります。遺言の内容を全部手書きする必要があるということです。そうしないと遺言が無効となります。他にもいくつかの要件がありますが、詳しくは学習を進める中で学んでくださいね。
ところで、被相続人に配偶者と子がいるようなケースで、「配偶者に全財産を相続させる」といった内容の遺言をしても、それは有効です。この場合、遺言がなければ被相続人の子は相続財産の2分の1を承継できたはずです。しかし、相続には残された遺族への生活保障の側面があることも踏まえると、遺言があることによって子が全く相続できないとなるのはいただけません。そこで、民法は、一定の人に対して、遺言によっても奪う事のできない最低限の取り分を保障しています。この取り分のことを遺留分といいます。さきほどのケースですと、子は配偶者に対して、「相続財産の4分の1をよこせ」ということができます。
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