はじめに
この記事では、もし自分がこれから独学で予備試験の合格を目指すと仮定した場合に、どのような道筋をたどるかについて徹底検討しています。この記事を最後まで見ることで、合格までの道筋がより鮮明にイメージできるようになるはずです。また、自信をもって勉強計画を進められるようになると思います。
あらかじめ結論を言うと、次の7つの道筋をたどります。
- 過去問といくつかの答案をみる
- 基礎知識を学ぶ
- 短文事例問題を解く
- 過去問答練
- 短答対策
- 本番シュミレーション
- ひたすら弱点補強
以下では、それぞれの道筋について説明していきますね。
1 過去問といくつかの答案をみる
まずは、ゴールの確認からです。どこがゴールなのかがわからないと気持ちが持たないし、勉強の方向性がブレやすいからです。これをマラソンでたとえると、10kmを走るときとハーフマラソン(20km)を走るときとフルマラソン(約42km)を走るときとではペースが違いますよね。つまり、ゴールの位置で計画を変えているということなのです。何キロ地点にゴールがあるのかわからないマラソンだと、上手にペース配分をすることができません。
そんなわけで、ゴールの確認のためにまずは過去問と答案をみます。この時点では過去問で何が問われているのか全くわからなくて問題ありません。どういう問い方をしているのか、それに対して、合格者の答案はどう答えているのかを確認します。
ここで、合格者の答案は少なくとも上位答案と普通の順位の合格答案の2通を参照すべきです。上位答案と普通の合格答案のいずれも結果的に合格しているわけですから、合格するだけなら普通の順位の合格答案だけでもいいのではないかと思うかもしれません。しかし、ギリギリでの合格を目指すとギリギリで不合格になるおそれがあります。年に1度しかない試験なので、ギリギリ合格を目指すのはリスクが高いのです。したがって、上位答案に近い答案が書けるようになることを当面のゴールとして、取り組んでいきます。
2 基礎知識を学ぶ
次に、基礎知識を学びます。まずは、薄めの入門書から学習をはじめてざっくりと全体像をつかみます。入門書で触れられている制度や概念は非常に重要な事項であることが多いです。ですので、この段階で登場した制度や概念についてメモをとっておきます。入門書から学習をはじめることを何かにたとえるならば、どこかに旅行に行くとなったときに地図を見るようなものなのです。地図をみながら、おおまかにこのあたりのルートを通って行けばいいんだと理解しながら計画をたてていくイメージで入門書を読み進めていくのです。ここで注意すべきは、入門書の内容を事細かに覚える必要はないことです。入門書ではあくまで全体像をつかむことが目的となっているからです。
入門書を読み終えたら、次に予備校本を読みます。ただし、どんな予備校本でもいいというわけではなく、ぶ厚すぎる予備校本はダメです。具体例を出すとC-Bookとかシケタイ(伊藤真の試験対策講座)とかはぶ厚すぎるという印象を受けています。今なら伊藤塾のGOシリーズがいいと思います。ただし、全科目揃っているわけではありません。揃ってない部分は仕方がないから他の予備校本か定評ある基本書で代替します。
使用教材は、基本書でも予備校本でもどちらでも構いません。私は、最初に芦部憲法を読んでみて「ワカラン…」となったので予備校本を選びます。ちなみに、基本書を選ぶなら定評のあるものを選んでください。
予備校本や基本書を読むというこの段階では、何度も読み込むのではなく、以下の3つのことを意識します。
- 全体像をつかむ
- どんな制度があるのか、それが何を目指しているのかを知る
- どこにどんなことが書かれているかをおおまかに理解する
これらに加えて、予備校本や基本書を読んでも答案が書けないという感覚をつかんでおくことが重要です。予備試験・司法試験の受験生はどうしてもインプット中心の傾向がありますが、アウトプットを中心として学習を進めるのが合格への近道なのです。
というわけで、アウトプット中心の学習をするための前座として、基礎知識をインプットします。
3 短文事例問題を解く
基礎知識のインプットを終えた段階で再び過去問に挑戦します。基礎知識を学ぶ前と学んだ後では問題の意味の理解度が違うとの感想を持つでしょう。しかし、この段階では過去問を解く(=合格答案を書くこと)はできないはずです。それは、基礎知識を答案に反映するというアウトプットの練習をしていないからです。このように、いきなり過去問を解こうとしても全く太刀打ちできないため、ここで短めの問題を解くことでアウトプットの練習を行います。
たとえば、子どもが自転車の練習をするとき、まずは補助輪をつけて自転車に乗ってみて、そのあと、補助輪をひとつ外してみて乗ってみて、そして、補助輪なしで乗るというのが王道の練習法だと思います。僕もこのようにして補助輪なしで自転車に乗ることができるようになりました。法律の学習においても同じように、法律の問題を解くことに徐々に慣らしていく必要があるのです。そして、この段階で解くのに適切な難易度となっているのが短文事例問題です。ですので、短文事例問題と解くことでアウトプットの練習をします。
ここからインプット教材は択一六法に切り替えます。予備試験の論文式試験では六法を閲覧することができますが、択一六法は条文ごとに重要事項が掲載されているため、使い勝手が良いからです。この段階では択一六法を見ながら答案を書いて構いません。短文事例問題を解く際には、自分の書いた答案と他の答案を比べたいので答案付きの事例問題集をおすすめします。ただし、答案付きの事例問題集の選択肢は少ないです。辰巳法律研究所のえんしゅう本や伊藤塾の試験対策問題集予備試験論文(通称伊藤塾赤本)が候補となるでしょう。
短文事例問題について、学者の書いているものを使いたい場合は、サブノートシリーズ(憲法・民法・刑法)、基本行政法、基本刑法、ロープラクティス商法、ロープラクティス民事訴訟法が候補となるでしょう。しかし、これらには答案がついていないのであまりおすすめはできません。良い答案と自分の答案を比較することで、良い答案の表現を自分のものにしたり、自分の答案の弱点を把握することができるので、答案のついた問題集を選ぶべきなのです。
インプット教材を見ながら答案を書けるようになったら、今度はインプット教材を見ずに短文事例問題に挑戦してみます。六本を参照し条文を見て解答できるという条件下で短文事例問題を解き、記憶しなければならない知識とそうでない知識を振り分けていきます。記憶しなければならない知識はこの段階でしっかり記憶するようにしましょう。
このように、短文事例問題を解くことを通じて答案を書く力を身に着けていきます。
4 過去問答練
次に、過去問答練を通じて試験問題の難易度を実感しつつ、自分なりの試験本番の立ち振る舞いを確立していく段階となります。
野球でも、壁に向けてボールを投げるのと、実際にキャッチャーを立たせてバッターボックスにバッターがいる状態でボールを投げるのとでは、プレッシャーが全然違います。つまり、過去問のボリューム・難易度・問い方に慣れていく必要があるのです。
過去問答練で作成した自分の答案と出題の趣旨・採点実感とを照らし合わせながら、答案に書く内容を調整していきます。ここで注意してほしいのが、採点実感のすべての要求を満たす必要はないということです。採点実感の要求をすべて満たせばダントツの1位答案が出来上がりますが、合格を目指すにあたってそこまでの必要はありません。しかし、当然ながら、過去問答練を通じて採点実感の要求レベルに近づけていく努力は必要です。
過去問答練を通じて、さまざまな点を確立していきます。
- 答案構成をどの程度詳しくするか
- 答案構成のタイムリミットをどこに設定するか
- ナンバリングをどうするか
- どんなペンを使うか
- 問題文をどのように読むか
こういったことを自分の中で確立し、試験本番で答案を書けるように仕上げていきます。
5 短答対策
余裕のある方は短文事例問題集を解くのと同時に短答対策をはじめることをおすすめします。しかし、多くの方はなかなか余裕がないと思いますし、僕が試験勉強をしていてもそんな余裕はないと思います。なぜなら、答案を書くことは精神的な負担が非常に大きいからです。答案を書くことで自分の実力のなさが浮き彫りになり、メンタルがガリガリと削られていくのを感じます。
そんなわけで、この段階で短答対策をはじめます。短答過去問を何度も解くことで論文対策で使わなかった知識を習得していきます。目安としては、短答過去問でおおよそ全問正解するレベルになったら本番で8~9割、短答過去問でおおよそ9割正解するレベルになったら本番で7割程度の点数がとれるようになります。
短答過去問の問題集は大きく分けて体系別と肢別と年度別がありますが、これについてはどれを選んでも構いません。僕の場合は年度別を使って1回あたりの負担を小さくして、復習の時間を確保します。復習をせずに解きっぱなしだと知識の定着率が悪いので、しっかりと復習の時間を確保することが重要です。
このようにして、短答試験で足をすくわれることがないよう対策を進めます。
6 本番形式でシュミレーション
さて、短答・論文ともに対策を進めてきましたが、ここで短答・論文ともに本番形式でのシュミレーションを行います。開始時間や終了時間も本番の試験とあわせます。
いろんなスポーツでも練習試合をしますよね。これによって細かい部分を含めた本番の立ち回りを確認しているのです。また、現時点での自分の実力を確かめることができます。たとえば、バスケットボールで自分たちよりも格上の強豪校と練習試合をするのは、自分たちのバスケットボールがどこまで通用するかを確かめるためだったりします。これを予備試験でも行うのです。
もし可能であれば模試を受けるのが望ましいです。試験本番は予想外な出来事が起こると思ってください。たとえば、次のようなことが起こります。
- 隣の人の筆圧が強くて机が揺れる
- 隣の人の独り言が気になる
- 室内の温度管理が悪くて気分が悪くなる
- 周りの人の体臭が気になる
模試でも上記の経験をすることができる場合があります。しかし、自分だけでシュミレーションをしてもなかなか上記の経験はできません。1年にたった1回の試験なので、予想外のケースにも可能な限り対応できるようにしておきたいところです。
このように本番に向けて万全の準備をしておきます。
7 ひたすら弱点補強
ここまでくればあとはひたすら弱点を補強する作業をするだけです。短答が弱いなら短答対策を、論文が弱いなら論文対策をすることになります。ただし、弱点については細かく分析を加えます。たとえば、「憲法の論文が苦手」「民法の短答が苦手」ということでは弱点の分析が荒いと思います。目安としては、「憲法の職業選択の自由の論文が苦手」、「民法の養子縁組に関する短答が苦手」といったくらいには細かく弱点を分析しましょう。
弱点補強と同時に、覚えていなければならない事項が抜けていないかのチェックも怠らないようにします。このようにして「弱点補強×弱点探し」を継続します。そして、試験本番を迎えて合格を勝ち取ります。