予備試験とロースクールのどちらを選ぶべき?

はじめに

ご存知の通り、司法試験を受験するためには、①予備試験に合格する、②ロースクールを修了するのいずれかの条件を満たさなければなりません。大学在学中の方や社会人の方の中には、予備試験ルートで司法試験に挑戦するか、それともロースクール経由で司法試験に挑戦するかを悩んでいる方がいらっしゃいます。今回は予備試験ルートとロースクールルートのどちらを選ぶべきかについて解説します。

1 判断のポイント

「敵を知り、己を知れば、百戦してあやうからず」というのは孫子の有名な言葉です。何か物事を決断するにあたっても敵と己を知る必要があるでしょう。予備試験とロースクールのどちらを選ぶべきかという問題についても、予備試験やロースクールについて知って、自分が置かれている状況についても認識してから判断を行うべきなのです。

結論を出そうにも、万人に対して予備試験とロースクールのどちらか一方を勧めることができるわけではありません。私はロースクールには否定的ではありますが、一方でロースクールのメリットについても認識していると自負しています。そこで、次に、予備試験やロースクールについて知ることからはじめていきましょう。

2 各ルートの特徴

(1)予備試験について

まず、予備試験の特徴について見ていきましょう。予備試験では、①短答式試験、②論文式試験、③口述試験の3つの試験を行います。短答式試験に合格すると論文式試験に、論文式試験に合格すると口述試験にそれぞれ進むことができます。では、それぞれの試験の合格者数を確認しておきましょう。以下のデータは令和2年のデータです。

受験者数10608人
短答式試験合格者数2529人
論文式試験合格者数464人
口述試験合格者数442人

データを見る限り、短答式試験に合格するのはおおよそ受験者の4分の1程度、論文式試験に合格するのは短答式試験の合格者の5分の1程度であることがわかります。また、最終的な合格率も5%を切ることもわかります。このように、合格率を見るとかなり厳しい試験であることがわかります。

では、試験ではどのようなことが問われるのでしょうか。短答式試験の試験科目は次の通りです。

  • 憲法
  • 行政法
  • 民法
  • 商法
  • 民事訴訟法
  • 刑法
  • 刑事訴訟法
  • 一般教養科目

司法試験の短答式試験は憲法・民法・刑法の3科目なので、司法試験よりも予備試験の短答式試験のほうが範囲が広いです。

次に、論文式試験の試験科目は次の通りです。

  • 憲法
  • 行政法
  • 民法
  • 商法
  • 民事訴訟法
  • 刑法
  • 刑事訴訟法
  • 法律実務基礎
  • 選択科目

令和4年の予備試験からは新たに選択科目が追加されました。司法試験と比較すると、法律実務基礎科目がある分予備試験のほうが範囲が広いです。

さらに、予備試験には司法試験にはない口述試験も課されます。口述試験では法律実務基礎科目が出題されます。

ここまで見たことからお分かりの通り、予備試験は司法試験よりも出題範囲が広く、しかも合格率も低い非常に厳しい試験です。

(2)ロースクールについて

ロースクールについては、大きく既修者コースと未修者コースとに分かれます。既修者コースは一定の法律知識を備えている人を対象に2年で修了するコースです。これに対して未修者コースは法律知識を備えていない人を対象に3年かけて修了するコースです。既修者コースに入学するためには法律科目が出題される入試を突破しなければなりません。

ロースクールの修了が司法試験の受験資格となっているため、ロースクールに入学した後は、しっかりと講義に出席して単位を取っていかなければなりません。ロースクールは大学院の修士課程と同等の扱いとなり、学費もかかります。

ロースクールでは司法試験に出題される科目はもちろんですが、それ以外にもさまざまな法律について学ぶことが可能です。私は京大ローに在籍していましたが、たとえば、法哲学・フランス法・生命倫理などの講義を受講しました。

以下では、主要なロースクールと司法試験の合格者数を見ることにしましょう。次のデータは令和3年司法試験のデータです。

学校名受験者数最終合格者数合格率(小数点以下切り捨て)
京都大学法科大学院18511461%
慶應大学法科大学院22712555%
中央大学法科大学院2618331%
東京大学法科大学院1999645%
一橋大学法科大学院1106458%

2年ないし3年就学した後の数字としては厳しい数字となっています。これでもロースクール全体の中では良い合格率を出しているロースクールを挙げています。次に、ロースクール全体と予備試験合格者の司法試験に関するデータを確認しましょう。上記の表と同じく令和3年司法試験のデータを記載します。

受験者数最終合格者数合格率(小数点以下切り捨て)
法科大学院合計3024104734%
予備試験合格者40037493%

予備試験合格者の司法試験合格率は圧倒的ですね。これに対して、法科大学院合計ではおおよそ3人に1人が合格するような合格率になっています。

3 あなたの現況は?

ここまでで予備試験やロースクールの特徴や各種データについてはご理解いただけたのではないでしょうか。次に、現在あなたが置かれている状況を把握しなければなりません。具体的には、次のようなことを自問自答してください。

  • ロースクールに行きたいか
  • 一人で取り組むより複数の人と一緒に取り組んだ方が成果が出るタイプか
  • 金銭的な余裕はあるか
  • 時間的な余裕はあるか
  • 司法試験の合格が今から3年後以降になっても構わないか

いかがでしょうか。

4 結論

もし、さきほどの自問自答の答えがすべて「YES」ならロースクールに行くことをおすすめします。なぜなら、ロースクールに行くのにピッタリだと考えられるからです。また、いくつか「NO」があったとしても、今あなたが大学生で、ロースクールと予備試験を並行できる場合にはロースクールに行くという選択はアリです。なぜなら、ロースクールが予備試験不合格のリスクヘッジになるからです。

しかし、それ以外の方は、予備試験ルートを選ぶことをおすすめします。予備試験合格者の司法試験合格率を見ても明らかですが、予備試験と司法試験で求められる能力は酷似しています。予備試験について合格レベルの実力を持つことは、司法試験において合格レベルの実力を持つことと近しいのです。そして、ロースクールでは学費がかかったり講義を受講したりしなければならないなど経済的・時間的な制約を受けることになりますが、予備試験ではこれらの制約なしに挑戦することができます。そのため、私としてはより制約の少ない予備試験ルートをおすすめしています。

 


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